終戦後の国民感情

『突然、お隣のご主人が大声で叫んだ。
「戦争は、終わったんや。そう、のたもうとるで・・・日本は敗けたんや。敗けたんやで・・・」
しばらく、みんな、呆然と立ちすくんだ。
私は、ハッと我にかえって、義妹の顔を見た。義妹の目がパッと輝いた。私たちは、母の手を引っ張って、家の中に駈けこんだ。
「終わったのよ、母さん、戦争が終わったのよ」
「ほんとうに終わったのかねえ」
「終わったのよ、終わったのよ、私の旦那さまが帰ってくるのよ」
私と義妹は、手を握って家の中をぐるぐる踊りまわった。
「もう空襲もおしまいよ」
家中の暗幕をはずして歩いた。』
澤村貞子(三八)

「村のようすがいつもと違っていた。灯火管制のはずの村の家々は開け放たれ、電灯はこうこうと庭を照らし、かけまくっているらしいレコードからは古い歌が流れてきた。(中略)村の人が通りかかって、兵隊さん、もう戦争はしないでいいんだよ、とひとこと言ってむこうへ行った」
安野光雅(一九)

玉音放送後、街中では日傘を差し、隠し持っていたカラフルなスカートをはいた若い女性の姿を多く見かけ、浴衣に半幅帯で涼んだ年輩の女性も多く見かけた。灯火管制が解除されたため、その夜からどこの家でも煌々と電灯の明かりが灯され、空襲もなくなり、皆生き延びた事にホッとしたそうである。

「街々にあかるく電灯ともりたりともしびはかくも楽しかりしか」
大浜博(二一)

「あなうれしとにもかくにも生きのびて戦(たたかい)やめるけふの日にあふ」
河上肇(六六)