尾崎咢堂
ひとらーをくびり殺せる夢を見ぬ殺すを嫌ふ我性(わがさが)に似ず
善悪を問はで勝負を問ふ国とつひに結びぬ同盟の約
懲(こ)りずまに又も踊りぬヒトラーが吹く笛の音(ね)に心狂ひて
国民の落行(おちゆ)く先の思はれて冬の長夜もねざめがちなり
敗れなばヒ氏とム氏とは自殺せん我大君はいかがしたまふ
五ケ年に三百万の人命をたちてかち得しものは何物
共栄と口(くち)には云へどわが国の今行く道は共倒(ともだふれ)の道
反軍と世にすてらるる思想こそ国民救ふ基(もとゐ)とは知れ
重臣の数はもろ手に余れども国に殉ずる人一人なし