青年将校たちの反体制化

青年将校たちの反体制化

海軍大臣などを通じて政党内閣を牛耳ってきたのに、今や政党内閣の方が軍部を支配エリートの地位から追い落とそうとしていることに、海軍青年将校たちが危機感を抱いた。霞ヶ浦航空隊の海軍中尉藤井斉が九州のある同志に五月八日付で送った手紙は、先に紹介した義部達吉の主張を読んだ かの如く、一対一の対応を示している。藤井は次のように記している。

「議会中心の民主々義者が明かに名乗りを上げて来たのである。財閥が政権を握れる政党政府、議会に対して国防の責任を負ふと云ふし、浜ロは軍令部、参謀本部を廃し帷幄上奏権を取り上げ、軍部大臣を文官となし、斯くて兵馬の大権を内閣即ち政党の下に置換へて、大元帥を廃せんとする計画なり。今や政権は天皇の手を離れて最後の兵権迄奪はんとす」(『現代史資料4国家主 義運動1 五三頁。傍点筆者)

すでに日本の支配階級は「財閥」と「議会中心の民主々義者」に握られている以上、青年将校は支配エリートとしてではなく、反体制エリートとしての行動をめざす。それは労働者がストライキを行 い、小作農が小作争議に訴えるのと同じく、非合法的な行動に向かう。(階級の日本近代史 坂野潤治P125〜126)