盧溝橋事件の真相2

当時の日本の国防において明確な目標もなく、政戦略もない混迷のなかに陥ってしまったのである。


広田弘毅内閣で決定された「国策基準」は、予算取りの陸海軍国防方針で、国策の基準が日本の進むべき方針を決めるものではなく、陸海軍平分して同額にするために、陸海軍の馴れ合いにより決定させたものである。

国策の基準(1936年8月7日 五相会議決定)
一、国家経綸の基本は大義名分に即して内、国礎を鞏固にし外、国運の発展を遂け帝国か名実共に東亜の安定勢力となりて東洋の平和を確保し世界人類の安寧福祉に貢献して茲に肇国の理想を顕現するにあり 帝国内外の情勢に鑑み当に帝国として確立すへき根本国策は外交国防相俟つて東亜大陸に於ける帝国の地歩を確保すると共に南方海洋に進出発展するに在りて其の基準大綱は左に拠る
 東亜に於ける列強の覇道政策を排除し真個共存共栄主義により互に慶福を頒たんとするは即ち皇道精神の具現にして我対外発展政策上常に一貫せしむへき指導精神なり 国家の安泰を期し其の発展を擁護し以て名実共に東亜の安定勢力たるへき帝国の地位を確保するに要する国防軍備を充実す
 満州国の健全なる発達と日満国防の安固を期し北方蘇国の脅威を除去すると共に英米に備へ日満支三国の緊密なる提携を具現して我か経済的発展を策するを以て大陸に対する政策の基調とす 而して之か遂行に方りては列国との友好関係に留意す
 南方海洋殊に外南洋方面に対し我民族的経済的発展を策し努めて他国に対する刺戟を避けつつ漸進的和平的手段により我勢力の進出を計り以て満州国の完成と相俟つて国力の充実強化を期す
二、右根本国策を枢軸として内外各般の政策を統一調整し現下の情勢に照応する庶政一新を期す要綱左の如し
 国防軍備の整備は
(イ)陸軍軍備は蘇国の極東に使用し得る兵力に対抗するを目途とし特に其在極東兵力に対し 開戦初頭一撃を加へ得る如く在満鮮兵力を充実す
(ロ)海軍軍備は米国海軍に対し西太平洋の制海権を確保するに足る兵力を整備充実す
 我外交方策は一に根本国策の円満なる遂行を本義として之を綜合刷新し軍部は外交 機関の活動を有利且円満に進捗せしむる為内面的援助に勉め表面的工作を避く
三、政治行政機構の刷新改善及財政経済政策の確立其の他各般の施設運営をして右根本国策に適応せしむるか為左記事項に関しては適当の措置を講ず
(イ)国内与論を指導統一し非常時局打開に関する国民の覚悟を鞏固ならしむ
(ロ)国策の遂行上必要なる産業竝に重要なる貿易の振興を期する為行政機構竝に経済組織に 適切なる改善を加ふ
(ハ)国民生活の安定、国民体力の増強、国民思想の健全化に就き適切なる措置を講ず
(ニ)航空竝に海運事業躍進の為適当なる方策を講ず
(ホ)国防及産業に要する重要なる資源竝に原料に対する自給自足方策の確立を促進す
(ヘ)外交機関の刷新と共に情報宣伝組織を充備し外交機能竝に対外文化発揚を活発にす「帝国の地歩を確保する」とは支配地域を確立するということです。

解説
「共存共栄主義により互に慶福を頒たんとする」とはのちの大東亜共栄圏政策の構想である。

「日満支三国の緊密なる提携」とは中国が満州国を公式に承認することを前提に、全中国を日本の支配下に置くことを意味する。

「外南洋」の進出とは、東南アジアの石油、錫、ゴムなど、中国に産出しない軍事物質の自給自足を目標としての獲得をめざしたものである。

「庶政一新を期す」とは、日本の経済機構を統制ないしは計画経済的機構に改めることである。

陸軍は「開戦初頭一撃を加へ得る如く在満鮮兵力を充実す」とし海軍軍備は「米国海軍に対し西太平洋の制海権を確保するに足る兵力を整備充実す」として、陸軍は北進、海軍は南進を主張して、その言い分を併記したにすぎない。その結果予算については陸海軍平分して同額にする、と言う極めて不合理なところに落着いたのである。

つまり日本の国力で、ソ連をも英米をも敵とすることによって、非現実的な作戦構想を立て、軍事予算獲得競争が繰り広げられた妥協の産物が日本の国策の基準として決定されたものであろうと思うのである。