田中正造翁に思うこと

田中正造翁に思うこと

彼は政治に一身を献げる決心をした。彼は自分のためには何もしないこと、すべてを公共のためにささげることを、彼は家を捨て、死にいたるまで、この誓いに忠実に生きた。
彼ほど不屈に、不死身の戦いをつづけた人間は、彼の以前にも、以後にもないのではないか。
彼の思想は、彼の全行動であった。
彼が死んだとき彼が所持していたのは、草稿と手紙とチリ紙と、聖書だけ。その聖書は皮表紙の新約聖書ですが、これはかなりあとになって手にいれたものです。はじめは、彼は小さな紙表紙の分冊の、マタイ伝一冊を、憲法と綴じ合わせてもって歩いていました。それを見て吉田という教師が、「それでは不便でしょうから新約聖書全書をあげましょう」といった時、彼の答えは、「私はこのマタイ伝の一節でさえもまだ実行できないでおります、全書をいただいても無駄です」といったそうです。