伊集院兼寛

薩軍士官伊集院兼寛は、つぎのような手記を残している。

「戊辰正月三日、幕兵鳥羽伏見両街道に廻り、戦端既に開け、—度達するや、宮中疑懼の念変じて、歓喜の声となり、前には、西郷、大久保の宮中に在るや、蛇蝎の如く、近づくもの なかりしを、陸続来りて面晤を請う者多く、却ってその煩に堪えず、只今帰邸せりと、西郷の話せしことあり。且語っていう、鳥羽ー発の砲声は、百万の味方を得たるよりも嬉しかりしと、予輩に向って一笑せり。当時宮中の形勢を想像するに足れり。」