青い山脈

昭和22年に新聞連載に始まり、単行本となるや当時の大ベストセラーとなった「青い山脈」(石坂洋次郎作)なかにある一文を紹介します。

幼稚なラブレターから発展した若い英語の島崎雪子先生と生徒との物語です。

雪子は、気分の転換をはかるために、チョークをとって、黒板に大きく、国家、家、学校と大きく書いてその3つの言葉の下に個人と書いて、生徒の目をそれにひきつけた。
「いいですか、日本人のこれまでの暮らしの中で、一番間違っていたことは、全体のために個人の自由な意思や人格を犠牲にしておったということです。学校のためという名目で、下級生や同級生に対して不当な圧力干渉を加える、家のためという考えで、家族個々の人格を束縛する。国家のためという名目で、国民をむりやりに一つの型にはめこもうとする。
それもほんとうに、全体のためを考えてやるのならいいんですが、実際は一部の人々が、自分たちの野心や利欲を満たすためにやってることが多かったのです。